/ja あやつる YmrDhalmel

バレーボールを見た記録が多いです。主に北で、たまに南で。

「Y」の底力


土浦。
つくばの隣町。TXが開通するまでは、つくばへの入口のひとつと認識していた場所。

2016/17 V・チャレンジリーグIの開幕週は土浦に全8チームが集まっての開催。つくばユナイテッドSun GAIAのホームゲームであり、当日まで、この日に向けて、チームが懸命な準備やプロモーションをおこなっていたことを、しみじみと見聞きしていた。

早いもので、あれから1年半が経っていた。2年前のシーズンが終わってから、シーズンが変わる間際に聞いた、突然の移籍のしらせ。チームがはじまった頃からいろいろな形で見ていた自分にとって、ある時点から特別な光を以てそのチームのまんなかにいた選手が、チームを去ったときから。

移籍した先のチーム=大分三好にとっては「おかえりなさい」だった。いろいろな事情があってのことだと、一生懸命納得しよう、理解しよう、呑み込もう、はじけよう、そう思いながらも、なかなかそうはいかない日々が始まった。それが2015/16シーズンであった。開幕週を見に行って、リリーフサーバーで出場したところを1回見た。そりゃそうだ。攻められるサーブを持っている。それはひとつの武器だ。でもさ。
年が明けてすぐの試合はつくばホームゲームでの桜。1年前に忘れられない試合になった、つくば-大分三好戦。大分三好は合流ほどない内定選手をセッターとしてスタートから起用した。その場所に来るのを楽しみにして待ちかねていたそのひとは、帯同すらしてこなかった。

ちょっと前の話はそのへんにしておく。大分三好はおおきくチーム構成が変わって、新人選手を核に据えつつ、あたらしいシーズンを迎えた。今季も「Y」だった。…とはいえ、セッターって、2人なり3人なりをベンチに入れていても、その遣われ方はチームによって異なるし、このチームはどちらかといえばスターター=Xで押す(あるいは引っ張る)傾向がつよかった。それはなにゆえなのか、というのは常に思っていた。シーズンの狭間におこなわれた試合を見たときに、そこで切り替えたらどんな風になるんだろう、という思いを、あまり露骨に顕すのは得意ではないから、じんわりと心の底にくすぶらせていた*1

くすぶらせていたものが爆発しそうになったのが、出勤準備中にDAZNで見ていた開幕戦でのひとつのシーンだった。リリーフサーバーで出場したときだった。そりゃ攻められるさーb(ry…からのラリー。大分三好コートの微妙なところに上がった1本目を追って、「ふたりのセッター」が交錯した。なんともいえない余韻を残すプレイだった。その試合を引き続きモニター越しに追って、大分三好って、そりゃ、V・チャレンジIの中ではかなり戦力は揃っている(そりゃプレミアにいたチームだし、復帰を目指しているわけだし)のだが、なかなか「増幅」させるのが難しい状況に在るんじゃないかな、1+1を3にする、120%のパフォーマンスをコートで出すことがなかなか出来ずにいるんじゃないのかな、でも、それが出来ないと、その先の目標達成もおぼつかないのではないだろうか、そんな思いを持ちながら土浦に向かったのであった。

1年半ぶりにこの場所で見られるひとが、そのチームの中でどういう存在感を示すのか。

11月6日第1試合、大分三好は、前日つくばとフルセットを戦って勝った、昇格初年度のVC長野と対戦した。VC長野はゴツくてやわらかいチームだ、と思った。ラリーが続き出すと長野が輝きだす。おおおお、そういう展開になってきちゃうんだな、と、試合の随所で思っていた。じわじわと大分三好は苦境に立たされた。第1セットを先取したものの、第2セットは大量のビハインドを喫しつつ進行した。
カードが切られた。前日、何かの渇望を感じた、そのカードが。

大分三好ヴァイセアドラー、22番に代わり、10番、浜崎が入ります」*2
セッターが、セッターとして、その定位置に立ったのだ。

カードが切られたからといって、それが、必ずしもくっきりと流れを変えていくとは限らない。何かを反応させながら、じわじわと試合の展開を変えよう、動かそう、動かしていこう、少しずつでも。一進一退はあったがこのセットはそのまま長野が取った。ひとつのクサビを打ち終わったチームは、また布陣を元に戻した。

第3セットはVC長野先行も、OPに細川主将を起用して一度は逆転した。しかし、ミスが重なり点差が拡がっていく。あ、これ、次のセットの頭からセッターを替えることにしたか。

セットカウント1-2。崖っぷち。前日(そりゃ富士通とだとはいえ)ポイントを取れなかった大分三好にとっては、ギリギリの正念場。第3セットからメンバーを2人替えて臨んた第4セットは、一進一退の展開であったが、終盤に向けて、また「じわじわと」持ってくる。
「はまちゃんは、サーブがいいんだよ」
何度となく聞き、さらに実感させられてきたその言葉。ゆえに、リリーフサーバーとして起用されることは少なからずあるわけで、ただし、ローテーションの中で回ってきてサーブを打つときには、また別の顔を見る感がする。流れの中でサーブできちんと「責めてくる」のだ。ことばがちゃんと伝わっていく感じがするのだ。直前のリリーフサーバー上前から、波状攻撃のごとくちくちくと攻め続けて、リードを拡げる。そして第4セットを取って、フルセットにもつれ込む。

第5セットの始まりは波乱含みであった。第4セットのメンバーでそのまま行くのだろうと思っていたが、スタート時に何やら膠着している。どうも「目玉」の書き間違えがあったようだ。大分三好は開始前に、交代枠をひとつ、しかも、セッターで、遣うことになった。

果たして、スタートしたファイナルセットは、長野がリードする展開となった。大分三好、硬い。コートチェンジから更に峯村のサーブポイントで5-9。第4セットに引き続きリリーフサーバー上前が投入されるが、長野が先に10点に乗せてさらに4点のビハインド。
そこから。

サーバー浜崎。応援団から「ゆうや、ゆうや」コール。ひっそりと、あの北のほうで威力を放った「ゆうやのサーブ」コールをかぶせながら、見守った先で、そのサーブは「責め」られた。栗木がレセプションに入りアレクサンダーが打ったクイックを高山がブロックした。引き戻しにかかった。

そこから、追いつき、更にリードする。大事なところで藤田のブロックが出た、というのは辛うじて記録出来るくらいのテンションで見ていたのだが、それ以外はもう、このチームを見ながらそんなに叫んだのは、初めてじゃないかというくらいで、何も書けない。

マッチポイント。なんというか、深呼吸。こみ上げるものをこみ上げたままにしながら、背番号10の背中をファインダーで追っていた。アレクサンダーのサーブがアウトになった。
ちょっとだけ時間が止まった。ほんとうに沁みてくる時って、実は時間はゆっくりと動いていくんだなと実感した。

勝った。

開幕(ほんとに)直前に公開されたつくば・たっきーのインタビューの中での一節で「結局、いい試合したところで、結果がすべてなので」というのがあって、わたしの中にこのことばがずっと胸に響いていた。その「すべて」がやってきたことを、この形で、この場所でやってきたことを、ほんとうに、今もしみじみ噛みしめている最中で、もう。

セッターとしての出場機会がこんなにすくなくなるとは、「見送る」ときには思いも寄らなかったひとである。この局面で、途中から出ていって、じわじわと状況を好転させていった、その底力を、大いに見せられたということである。

つくばが出てくる第3試合どころか、第2試合の終了も見届けられず、帰路に就いた。空港に向かうバスは、途中、つくばに立ち寄る。カピオの看板が見える。遠くにロケットが見える。洞峰公園を通り過ぎる。ほんとうに泣きたくなるような気持ちの時には泣けず、ほんとうに胸にこみ上げたときにはただただ口を開くだけで、ということを、ひととおりつくばを過ぎた後にバスの中でしゃしんを紐解きながら、しみじみと思った。そして、ちょっとだけのぼせて、酔った。

開幕したばかりなのだ。こういう日々が続くのだ。今季こそ、きちんと続きますように。そして、場所を越えて、チームを越えて、なお、願ってきていることが、叶いますように。

*1:たとえば、天皇杯ブロックラウンドで見た、九州産業大戦第2セット、など

*2:まさか、のちにこのアナウンスをもう一度聞くとは思わなかった